予備試験を独学・1年で受験してみた

非法学部生が独学・1年未満で予備試験に合格した記録(問題集絶対主義)/73期弁護士

弁護士経験1年での転職活動体験談ーインハウス(企業内弁護士)への転職活動

【この記事の想定読者】現役弁護士、弁護士資格保有

僕は、弁護士になって1年が経った頃、インハウス(企業に所属して働くサラリーマン弁護士)への転職を考え、2021年11月末頃から転職活動を行いました。

その際に3社を受験し、結果2社から内定をいただきました(金融:12月下旬に内定、製薬:1月中旬に内定)。

結局、転職はしませんでしたが…

 

今回は僕が経験した転職活動について書いていきます。

転職を考えたきっかけ

僕の所属事務所は、比較的規模の小さい法律事務所でした。

小規模事務所ではボス弁次第で振り回されます。

転職を考えたきっかけは、長時間勤務が常態化したことが主ですが、具体的すぎて書けないことも色々あります(笑)

ボス弁への信頼感や好感が、ゼロを割り込みマイナスになったのが登録1年後の頃で、この頃から転職を考え始めました。

 

転職先は企業内弁護士(インハウス)を考えました。

法律事務所だと大半が個人事業主扱いです。

すると、アソシエイトに深夜業務・休日業務をさせてもボス弁の出費は増えず、これらに対する抑止力がありません。

要は無理をさせ放題で、ブラックな就業環境を合法的に実現できてしまうのが(アソシエイトが個人事業主扱いになる)法律事務所なのだと思います。

また、大規模事務所はどうか分かりませんが、法律事務所は概ねボスの好きなままに事務所経営がなされており、「そこで働く者への配慮」が民間企業に比べて薄いように感じていました。

 

考慮事項

まず、転職するにあたり「そもそも異分野への参入は可能か?」という疑問があるかもしれません。

(例:企業法務から一般民事へ、ブティック事務所から弁護士ひとりひとりが幅広い分野扱う事務所へなど)

僕は73期ということもあって、身近に転職経験者はそれほどおらず、事例数が足りないのですが、

民事弁護修習中に法律相談演習を担当してもらった60期代の弁護士に同じ質問(「僕はブティック事務所に行く予定だが、一般民事、又は企業法務であっても幅広い分野を扱う事務所への転職は可能か?」)をしました。

すると「可能だと思う。そういう事例は僕も知っている。ただ、統計をとったわけではないが感覚的に経験10年を超えると、全く異分野に参入するのは難しくなる。なので全く違う分野に行きたいなら経験10年という数字を気にしてみては。」とのご回答を頂きました。

皆さんの参考になるかもしれませんので、記載しておきます。

僕の転職活動体験談

以下、僕の転職活動体験談を書きます。

 

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Step1 「ひまわり求人」で企業の求人を探した

www.bengoshikai.jp

 

転職、移籍を考えている弁護士の方→企業・団体等の求人情報→同意する→検索する

の順に進むと企業一覧が出ます。

多くは大企業の法務部職員の募集です。

僕はここで、以下の項目を検討し、クリアした会社を受験しました。

①好きなタイプの会社か?

②当該会社の業績及びその推移

③条件(主に業務時間と収入)

④自分でもやっていけそうか?

 

なぜ業務内容を見ないのか?と疑問に思われた方もいらっしゃると思います。

法律事務所は、特定分野だけ扱う事務所又は特定分野を中心的に扱う事務所ならば業務内容が全く異なりますが、インハウスとなるとそこまで大きな違いはないことも。

とはいえ、似たような業務内容が多いとはいえど、固有の業務が発生することも多かれ少なかれあります。

①好きなタイプの会社か?

僕は、自分の人生のうちの多くの時間をその会社で過ごすことになる以上、「自分が好きな会社で働きたい!」と思っていました。

それは、所属事務所のボス弁が嫌いだったせいもあるかもしれません(笑)

今の事務所の面接で「このボスとは合わないな〜」と思ったのですが、「将来のキャリア形成に役立ちそう」と思って入所したという経緯があリマス。

その反省から今回の転職活動では、「好き」を「損得」に優先させようと思いました(これが自分の中での転職の軸です。面接で話すような外向きとは別の軸)。

 

「好きなタイプの会社か?」というのは、その会社のビジネスモデルが理解できて、かつ、そのビジネスが(やり方等含めて)好きか?ということです。

 

その会社のビジネスモデルというのは、企業の説明会をYouTubeで見る、企業のIR(投資家情報)ページから最新の決算説明会資料や決算短信を見ることで、大まかなことが分かります。

なぜビジネスモデルが理解できる必要があると考えたかと言いますと、

⑴ビジネスモデルが分からないと、その会社が好きかどうか分からない

⑵ビジネスモデルが分からないと、その会社の未来の業績推移の予想もできない

⑶ビジネスモデルが分からないと、そもそも面接で何も話せない

からです。

 

⑴については、知らないと本当に好きか分からないということです。

とある外国に永住するとなったとき、

a.テレビで見たその国の情報だけで永住するか判断する

b.その国へ数日程度の短期旅行した時の感覚で永住するか判断する

c.1年間住んでみた時の感覚から永住するかを判断する

どれが1番、永住後の満足度が高そうでしょうか?

やはりその国をよく知っているc.のケースなのではないかと思います。

 

⑵について。たとえ今まで良い業績推移を描いていたとしても、今後も続くのかどうかはその会社のビジネスの状況、業態や市場トレンド、競合他社の状況などによって左右されます。

僕は、自分が入ろうとしている会社が、今後も勝てるかを考えたかったので、上記のような要素についても調べており、役員面接でも役員に対して臆せず質問しました。

 

⑶については、東京弁護士会の東弁ネット研修アーカイブの動画

[H30前]インハウスローヤーに聞く≪第2弾≫~組織内弁護士に求められるもの~

でも触れられていました。

登壇した先生の1人が「企業内弁護士のポジションを求めて転職活動する人は、一般の就職・転職活動をする人に比べて、その会社が何をやっているかすら調べてきていない人が多い」と仰っていました。

そういった場合は、面接で志望動機を話せないでしょうし、採用される可能性はほぼないのではと思います。

②当該会社の業績及びその推移

連続赤字企業や、業績が右肩下がりの企業、低収益企業(営業利益率10%未満)に行くつもりはありませんでした。

これまで見聞きした経験から、業績が芳しくない会社の社内の雰囲気は良くないというイメージがあったからです。

また、切実な話として、インハウスは収入の多くの割合をボーナスによって占められるという特徴があります。

ちなみに、僕が内定をいただいたうちの1社(金融)で提示された収入シミュレーションでは、基本給+資格手当=365万円程度に対し、ボーナス(基本給6ヶ月分)+残業代=245万円弱といった感じでした。

もう一方の製薬の会社は、年収の約3分の1がボーナスでした。金融の会社ほどではありませんが、まあまあの割合だと思います。

サラリーマンあるあるですが、業績が良くなったとしてもボーナスの額はそれほど増えないですが、業績が悪くなったら真っ先にボーナスをカットされます。

収入の多くの部分がボーナスに依存する以上、業績及びその推移は(①で検討したビジネスモデルも併せて)よく見ておく必要があります。

手っ取り早く調べたい方は、「IR BANK」に企業名を打ち込んでみると企業業績の大まかな推移が分かります。

irbank.net

 

③条件(主に勤務時間と収入)

勤務時間は会社によって1時間くらい異なることがあります。

僕は内定をいただいた2社から条件の提示をされましたが、A社(金融)は所定労働時間7時間、B社(製薬)は7時間50分でした。

どの企業も多少の残業は発生することがあると思いますが、グローバル企業などをはじめとして会社によっては深夜残業が発生することがあるそうです(内定をいただいた大手製薬企業では、頻繁ではないものの深夜残業があるそうです)。

 

収入は会社により大きく異なります。

法務部はどの会社でも似たようなこと業務が業務の大きな割合を占めると思いますが、同じことをするなら賃金は多い方が良いに決まっています。

僕は内定をいただいた2社から条件の提示をされましたが、A社(金融)は約610万円、B社(製薬)は約660万円で全く違いました。

④自分でもやっていけそうか?

例えば、「求める経験年数」が5年以上や10年以上といった会社は僕は受けることもできません。

そうでなくとも弁護士数が0~1の会社に、経験年数1年の僕が入ってひとりで法務の仕事を回すのは厳しいので避けました。

Step2 応募(書類送付)→面接→内定

これ以降は特に注意する点は少ないと思いますが、「その会社がどんな会社か?」というのは絶えず調べ続けた方が良いと思っています。

面接の話題としても役に立ちますし、そもそもその会社に入ることが自分の人生にとってよいのかを考えるきっかけになるからです。

・ビジネスモデル/ビジネス環境→当該企業の決算短信/決算説明会資料や中期経営計画を確認

・従業員の感想(OpenWorkなどで(元)従業員の声が聞ける。生の声は大事)

・業績推移→当該企業のIR(投資家情報)で財務ハイライトなどを確認

 

僕が転職活動の面接で共通で聞かれた質問は、以下のとおりです。

僕の主観で重要と考える質問に対しては、僕が面接で話したことを付記します。

 

★志望動機

★うちがどんなことをしている会社か知っている?

→ビジネスモデルを理解しているか?ということ。

対策としては企業のHPでIR(投資家情報)の報告資料を見てください。

決算説明会資料、決算短信が分かりやすいです。

メーカーであれば、代表的な商品を言えることは当然でしょう。

僕は製薬会社も受験したのですが、面接の際、以下のような点は前提知識として仕入れていました。

・どんなビジネスモデルか?:「新薬を開発する医療用医薬品会社」のビジネスモデル一般について説明をしました。会社によってはもう一歩説明を加える必要ありかも?

・どの分野の薬を開発しているのか?:会社によりがん、神経系統、向精神薬感染症など強い分野があります。

・代表的な商品は何か?:決算説明会資料に載っている商品のなかで売上上位2つの薬くらいは言えるとよいかと思います。

★転職の軸は?

僕はど正直に、「その会社のことをビジネスモデルを含めて理解でき、好きかどうか」と「労働条件」と答えていました。

ただ、前者については会社側が測定することができないので、よほどうまく説明するか、何か数値化できるような他の指標に置き換えるか、又はいっそ言わない方がよい場合があると思います。

★インハウスになる動機って?

→会社の方々は、弁護士が会社に所属してその1社のために働くことは、法律事務所で働く場合に比べて、その後のキャリア形成に大きな違いが生じると考えるようです。

実際は、インハウスを退職してどこかの法律事務所に転職こともできますし、何なら自分で法律事務所をいつでも開業することができるのですが…

なので、この点は説明できるようにしておくとよいでしょう。

僕はど正直に、法律事務所の嫌なところ(深夜・休日業務が多発することとそれに対する抑止力がないこと、ボスのやりたい放題なところ)を列挙し、法律事務所であれば全般的にそういったことが起こる「リスク」が潜在している(※)が、会社であればそういったことは起こりにくいと話していました。

・あなたが今までしてきた仕事の内容について説明してくれますか?

→正直に答えましょう。嘘を言うと、入社後最も大変なことになる事項の気がします。

なお、この質問に★マークを付けなかったのは、おそらく僕が弁護士経験1年での転職活動をしたため、会社側にそれほど重視されていなかったと思うためです。

実際、所属事務所の業務と内定をいただいた製薬会社の業務(契約書チェックがメイン)の間では親和性が非常に高かったのですが、内定をいただいた金融の業務(破産系の仕事が発生する模様)の間には親和性があるかどうか微妙でした。

面接においては、いずれの会社でも所属事務所で経験した業務内容よりも、経歴(在学中に予備試験合格)に触れられた上で、「裁判官・検察官は考えなかったのか?なぜか?」との質問の方が長い時間を取っていたような気がします。

・あなた自身を一言で表すと?

→「コツコツ真面目人間(そんな発想力豊かで突飛なことができるタイプじゃない)」と答えました。

多分それほど重要な質問じゃないので、実績(相手にも伝わるエピソード)を話せる特徴を選べば良いと思います。

・あなたが好きなことは?

→正直に答えればよいと思います。法律又は道徳・倫理観に反しているものでなければ、の話ですが…

 

正直に答えればいいと思います。

正直なことを言ったうえで、それを踏まえて「君を採用したい」といってくれる会社でしか僕は働きたくなかったので…

 

転職活動を経験した感想として、「弁護士の転職活動においては求職者側にそれなりの交渉力がある」と思います(※記事執筆時点)。

一定の需要があるのに対して、供給(有資格者)に制限があるからだと思います。ちなみに、僕の場合、内定をいただいた2社とも一般の転職給与体系に比べてやや高い条件を提示してたそうです。

 

また、内定をいただいた2社の役員面接では「内定出したら、うちの会社に来てくれますか?」との質問にど正直に、「いえ、申し訳ありませんが他社と比較検討させていただきます」と答えましたが、それでも内定をくれました。

Step0 転職エージェントを利用するべきか?

僕は転職エージェントを利用せずに転職活動を行い、内定をいただきました(某社でエージェントを利用していないことを驚かれたことがあります。ただ、弁護士向けのエージェントサイトに登録だけはしました)。

しかし、転職エージェントには、

・未公開求人がある

・応募者の転職動機や希望にあった求人を提供してくれる可能性がある

・その企業についての情報を仕入れることができる

などのメリットもあります。

ですから、転職エージェントを活用するメリットは十分にあると思います。

弁護士の転職はやや特殊だと思いますので、もし転職エージェントを利用する場合には、弁護士に特化した転職エージェントを利用するとよいでしょう。

 

 

エージェントを利用する際の注意としては「最後は自分の責任において、自分で決定する」ことだと思います。

エージェントはあくまで他人であって、あなたの人生を豊かにする責任はありません。

 

エージェントの言うがままにして後悔しないよう「自分で判断し、エージェントはあくまでサポート役にすぎない」という意識を持つのが望ましいです。

担当エージェントが信用できない場合は、交代を頼んだり、別のエージェント会社を利用するのもよいと思います。

おわりに

・今の所属組織を辞めたいか

・どの組織に転職したいか

・今後どのように人生の時間を過ごしたいか

など、転職活動は、自分は何が好きか/何がしたいか考える良いきっかけになりました。

自分の人生は、自分でコントロールするべきであり、コントロールできる

ということを実感する経験になりました

今の所属組織に不満を覚え、転職を検討する先生方の参考になれば幸いです。