日本弁護士連合会が発行する「自由と正義」の2021年7月1日発行(臨時増刊号)第72巻第8号(以下「本誌」という。)のテーマは、
弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査報告書2020
でした。
本誌の192〜194頁において、「法科大学院出身者・予備試験合格者の特徴」という切り口で両者の弁護士という職に対する満足度等の比較がされていたので、
一部をご紹介しつつ、調査結果に対する個人的考察をしてみます。
以前出した記事とも内容が被る箇所があるかもしれませんが、こ勘弁願います。
調査結果の引用(本誌193〜194頁)
法科大学院出身者の仕事の状況
⑴弁護士業務
40代以下・法科大学院出身者の弁護士では、
・債権回収
・交通事故
・債務整理
の各業務に「多くの時間を使った」と回答した人の割合が、それ以外の回答者よりも多かったとのことです。
逆に、
・企業法務
に「多くの時間を使った」と回答した人の割合は、それ以外の回答者よりも低かったとのことです。
⑵満足度
法科大学院出身者は、
・「社会的意義のある仕事ができること」への満足度が、他の回答者よりも低い
・「自分の裁量で自律的に仕事ができること」への満足度が、他の回答者よりも低い
・「男性も女性も平等に仕事ができること」への満足度が、他の回答者よりも低い
・「弁護士としての自分の将来性」への満足度は、統計的に有意な差は見られなかったが、法科大学院出身者の満足度がわずかに低いという程度
という結果が出ました。
予備試験合格者の特徴と仕事の状況*1
⑴弁護士業務
予備試験合格者は、
・知的財産
・企業法務
の分野を業務としている回答者の割合が、予備試験合格者以外のグループと比べて高いとのことです。
逆に、
・家族
の分野を業務の内容とする回答者の割合は低かったとのことです。
⑵満足度
予備試験合格者は、
・「自分の裁量で自律的に仕事ができること」に対する満足度が、他のグループと比較してかなり低い
・「弁護士としての自分の将来」に対する満足度は、他のグループよりもやや高い
という結果が出ました。
この調査結果に対する、司法の犬の実体験に基づいた偏見まじりの主観的分析
業務分野について
以上のように、法科大学院出身者は「一般民事」業務を扱い、予備試験合格者は「企業法務」を扱う人の割合が多いという結果になっています。
これは修習時代の同期の経歴及び就職先事務所の取扱業務と照らし合わせても、よく当てはまっています。
以下、僕の修習期である73期の弁護士を具体例としながら、深堀りしていきます。
⑴予備試験合格者の就職先と業務分野
僕は修習期間中、「予備試験合格者の修習生であって、修習開始時点で25歳以下の人」と十数名会いましたが、全員企業法務専門の事務所(大半が四大法律事務所*2でした)に行っており、一般民事を扱う事務所に行く人はひとりもいませんでした。
ちなみに僕は修習開始時点で23歳でしたが、企業法務を専門とする事務所に就職しています。
一方、予備試験合格者の修習生であっても社会人経験等を経て30代後半、40代又はそれ以上という人たちは、一般民事とインハウスが主流で、非常に少数ながら即独*3もいました。
⑵法科大学院出身者の就職先と業務分野
一方、法科大学院出身者は、その年齢・経歴によって大分様相が異なっていたと思います。
東大法科大学院、一橋法科大学院、慶應法科大学院などの上位校出身者で、司法試験を1回目の受験で合格した人々のうち、修習時点で25~26歳の人たちは、
その多くが四大法律事務所をはじめとする企業法務の法律事務所に行っていました。
ただ、あえて企業法務を避け、一般民事の事務所にいく人も少数ながらいました。
一方、
・複数回受験、とくに司法試験3回目以上の受験で合格した法科大学院出身者
・修習時点で30代後半、40代又はそれ以上の年齢の法科大学院出身者
に関しては、企業法務の事務所へ行く人は極めて少なくなり、ほとんどが一般民事又はインハウスへ行っていました。また、こちらも非常に少数ですが即独する人がいました。
しかしながら、このような人たちの中でも、ある外国語についてネイティブスピーカーである人や、省庁勤務など特殊な経歴を持っていた人は、名門といえる企業法務事務所に就職していました。
極めて少数かつ特殊な例ですので、あまり参考にならないかもしれませんが…
満足度について
まず、法科大学院出身者及び予備試験合格者の両者とも共通して、
「自分の裁量で自律的に仕事ができること」
への満足度が低いという結果が出ています。
これは、今アソシエイトの人が多く、パートナーから指示を受けて仕事をするような下働き的な働き方をしていることが原因ではないかと思います。
法科大学院出身者は60期以降、予備試験合格者は66期以降であり、法曹界では若手と位置づけられる部類です。アソシエイトがパートナーになるまでには10年程度を要する事務所が多いようですので*4、法科大学院出身者及び予備試験合格者の大部分は未だアソシエイトだろうと思います。
なお、本誌の150頁によると、
「自分の裁量で自律的に仕事ができること」に対する満足度は、
弁護士全体で80.7%が「満足」と回答していますが、
そのうち、
経営に携わる弁護士の89.4%が「満足」と回答する一方で、
経営に携わらない弁護士で「満足」と回答する割合が74.8%に留まることからも、
上記の考察を裏付けるのではないかと思います。
僕の個人的感想としては、両者とも年次を重ねてパートナーになったり、独立してボス弁になったりすれば、「自分の裁量で自律的に仕事ができること」への満足度は上がるのではないかと思います。
修習中、弁護修習で担当弁護士だった60期の弁護士も「独立してからは裁量が持てて楽しい」と仰っていましたし、僕の所属事務所の61期のパートナー弁護士も「パートナーになって以降は、アソシエイトの頃より裁量があって楽しい」と言っていました。
要は、「自分の裁量で自律的に仕事ができること」への満足度については、法科大学院出身者か予備試験合格者かという問題ではなく、
経営者弁護士か勤務弁護士かという問題に尽きるのではないかというのが僕の考察です。
なので、年次を重ねて経営者側へ回る人が増えるにつれて、法科大学院出身者・予備試験合格者の両者とも「自分の裁量で自律的に仕事ができること」への満足度は高まっていくだろうと思います。
次に、法科大学院出身者と予備試験合格者で明暗が分かれた「弁護士としての自分の将来」に対する満足度についてです。
以下、本記事の中でも特に個人的な感想になりますが、
修習中に会った、予備試験合格者の修習生であって修習開始時点で25歳以下の人は、勝ち組意識が強い人が多かったです(笑)
という冗談は置いておいてですね…
修習中、複数の弁護士と会って話を聞きましたが、その中で、
弁護士の数が増えて競争が激しくなっている昨今、多くの人がやっている一般民事業務は、特に差別化するものがなければ今後もさらに厳しくなって行くだろう
という声が聞かれました。
例えば、債務整理、離婚、相続、交通事故…等は業務の内容が一般化されていて、大体の手順や作業内容が決まっているため、差別化が難しく、また、参入障壁が低いそうです。
一般民事分野は、需要は一定であるものの供給が増えているというのが実態ではないでしょうか。
他方で企業法務、例えば知的財産、海外M&A、競争法など専門性の高い分野は、扱える事務所が限られているため、一般民事ほどは競争が激しくないだろうなあ…と、企業法務の分野に身を置いている者として内側から感じます。
企業法務分野は、需要は一定でありながらも供給も一定であり、また、専門性等の参入障壁の高さから供給が急激に増える見込みも特にないというのが実情だと思います。
四大法律事務所なんかが典型例だと思います。
以上のような理由から、一般民事に従事する割合が多い法科大学院出身者は将来を悲観し、企業法務を扱う予備試験合格者は将来を楽観視しているのではないかな、と思います。
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