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【憲法 再現答案】
第1 立法措置①
1.フェイク・ニュース規制法(以下、「法」)6条は、虚偽表現を虚偽と知りながらする自由(以下、「自由1」)を侵害し、違憲か。
2.まず、虚偽表現を虚偽と知りながらする自由は「表現の自由」として憲法21条1項(以下、法名略)により保障される。
この点、自由1は、自己の思想を外部に表明するものではないから表現の自由として同項により保障されないとの反論がありうる。しかし、虚偽表現をすることによって現在の社会の状況に異を唱えるなど、思想を表現している場合もありうるのだから、自由1は同項により保障される。
3.そして、法6条は「何人も…虚偽であることを知りながら、虚偽表現を流布してはならない」と規定しており、虚偽表現をすることが全面的に禁じられているから、自由1は制約されている。
4.ア.そして、自由1は自己の人格形成・発展を図る自己実現の価値と政治意思決定に関与する自己統治の価値を有し、重要な権利である。
反論として、虚偽表現を虚偽と知りながらすることによっては人格の形成発展につながらないし、また、政治的意思決定に関与するものでもないから、自由1は重要な権利とは言えない、というのがありうる。しかし、上記のように虚偽表現をすることによって現在の社会の状況に異を唱えるなど、思想を表現している場合もありうるのだから、自由1は自己実現・自己統治の価値を有する重要な権利であるといえる。
イ.また、6条は虚偽の表現そのものを流布することを全面的に禁止しているから、自由1に対する事前抑制であり、思想の自由市場への登場を妨げるため、制約の態様は強い。
5.よって、法6条が正当化されるかは①目的が必要不可欠であり②手段が目的達成のため必要不可欠か、によって決する。
ここで、出版物の事前差止めの判例においては、①事実の公共性②目的の公益性③事実が真実であるか、または真実と信じるに足りる相当な理由があること、という規範を用いて合憲性を判定した。しかし、同判例は名誉権との対立が問題となった事案であるから本件と事案を異にする。よって、上記の基準によるべきである。
6.ア.本件では、法6条の目的は、虚偽の表現により社会的混乱が生じることを防止すること(法1条)にあり、かかる目的は必要不可欠である。
反論として、以下がありうる。すなわち、虚偽表現によって社会的混乱が起きるのは、虚偽表現であることを見抜けない情報の受け手側に起因するものであるから、これらの者を教育すべきであり、右目的は必要不可欠ではない。
しかし、虚偽表現により社会的混乱が生じた場合、場合によっては人の生命や身体に危険が及ぶ場合もあるのだから、法6条の目的は重要である。
イ.反論として、社会的混乱を一切生じさせないためにはあらかじめ事前規制の方法によることも必要不可欠である、というのがあり得る。
しかし、虚偽表現がなされたあと、かかる表現を見た他者が、これが虚偽であることを発信し、注意喚起するなどの方法によっても社会的混乱は防ぎうる。また、法25条は法6条違反に対して罰則を設けている。これらの事情からすると、虚偽と知りながらする虚偽表現の思想の自由市場への登場を妨げる法6条は過度な制約である。
7.よって、法6条は自由1を侵害し違憲である。
第2 立法措置②
1.法9条1項、2項はSNS事業者が特定虚偽表現を削除するか否かを決定する自由(以下、「自由2」)を侵害し、違憲か。
2.自由2は、「表現の自由」として21条1項により保障される。
以下のような反論がありうる。すなわち、SNS事業者が特定虚偽表現を削除するか否かを決定することは、自己の思想を外部に表明するものではなく、同項で保障されない。
しかし、通常、SNS事業者はある表現を削除するかあるいは残しておくかについての内部基準を有しているのが通常であり、かかる内部基準に自己の思想が表現されているといえる。よって、自由2は同項で保障される。
3.また、法9条1項柱書は、同項各号に該当する場合に「特定虚偽表現」を削除しなければならないとしてSNS業者に対して特定虚偽表現の削除を義務付けており、また、同条2項はSNS業者に対して特定虚偽表現の削除を命じうる旨規定しているから、特定虚偽表現を削除するか残しておくかを決定することを認めておらず、自由2を制約する。
4.ア.自由2は、上記のような自己実現の価値・自己統治の価値を有する重要な権利である。
イ.また、法9条は特定虚偽表現であることを理由にSNS事業者にかかる表現の削除を義務付けているから内容規制であり、制約の態様は強い。
反論として、法9条1項柱書は「選挙運動の期間中及び選挙の当日」に期間を限定しており、内容中立規制であって制約の程度は強くない、というのがあり得る。
しかし、同条は特定虚偽表現であることを理由にSNS事業者に削除を義務付けているのだから、内容に着目したものであり、内容規制である。
ウ.もっとも、選挙には公務としての側面があるから合憲性判定基準を緩めるべきである。
この点、選挙犯罪者の選挙権を剥奪した公職選挙法の規定を合憲とした判例があるが、同判例は自ら選挙の公正性を害した者であり、本件とは事例を異にするとの反論があり得る。
しかし、選挙は民主政治の基盤であるから、選挙にはその本質として公正性が要求される。
5.よって、法9条1項、2項の合憲性は①目的が重要か②手段が目的達成のため、実質的関連性を有しているかによって判断する。
6.ア.法9条1項、2項の目的は特定虚偽表現につき、SNS事業者に削除義務を課すことで選挙の公正を確保すること(法1条)であり、かかる目的は必要不可欠である。
イ.また、法9条1項各号は「虚偽表現であることが明白であること」「選挙の公正が著しく害されることが明白であること」などと対象を限定している。
反論として、法9条2項に違反した場合、法26条は罰則を定めており制約が過度であるというのがあり得る。
しかし、法9条2項は、SNS事業者が同条1項の義務に従わなかった場合に特定虚偽表現の削除を命じうるものとしており、段階的な規制となっている。さらに、法15条3項、4項は、法9条2項の削除を命じうる委員会につき、党派的な偏りを排除して公正を保つよう配慮している。よって、規制は過度とはいえない。
ウ.また、法9条1項2項に目的適合性があることは明らかである。
以上より、法9条は21条1項に反せず合憲である。
第3 法20条の合憲性
法20条は9条2項の規定による命令を発するにつき、行政手続法3章の適用を排除しているが、31条に反し違憲か。
31条は本来刑事手続について定めた規定であるが、行政手続によっても人権侵害のおそれがあり行政手続であることをもってその適用を排除すべきでない。もっとも、行政活動は多種多様な目的でなされるから、事前の告知・弁解・聴聞の機会を与えるか否かは、制約される権利の種類・内容・制約の程度と、公益目的の内容・程度・緊急性を比較較量して決すべきである。
本件では、SNS事業者の自由2が制約されているところ、かかる自由は自己実現・自己統治の価値を有する重要な権利である。また、法9条2項はSNS事業者の上記内部基準にかかわりなく特定虚偽表現の削除を命ずるものであるから、自由2を直接的に制約しており、制約の程度は強い。他方、公益目的は、選挙の公正を確保することであり、選挙の公正を図ることは上記のように重要であるから、その必要性が高い。また、選挙期間は2週間しかなく、期日前投票の制度もあることから速やかに選挙に影響を与える特定虚偽表現を削除する必要があり緊急性は高い。
以上から、微妙な事案ではあるが、公益の必要性・緊急性が高いことから法20条は31条に反せず合憲である。 以上
【雑感】
・あてはめ下手すぎ(試験中から思ってた)。
・事前差止めの判例の規範を間違えたことに再現答案作成中に気付く。
・ナンバリングを、1.2.…の次は(1)(2)…のはずなのにア.イ.にしてしまった気がする。答案を書きなれていないツケが回ってまいりました。特定答案とならないことを願うのみ。
・答案構成に時間かけすぎて、明確性原則(21条、31条)は省略した。
司法試験あるあるだが、答案構成用紙だけは充実してしまっている。
・自由2については、「忘れられる権利」判決を参考にしたつもり。もっとも、これが答案上に表現されているといえるか微妙だが…
・過去の採点実感には「求めているのは具体的な事例の分析」としつこく書いてあったので、具体的な事例の分析をしたつもり。
・自由2なんで目的適合性あとに書いてるん…?汗
・公法系合計で100点、できれば110〜115点あればうれしい。
【使用教材】
『逐条テキスト』
→辞書的な役割。問題演習をしていて、不明な点や理解があいまいな点があれば使用。
→公法系は判例がとくに重視される科目のため、さすがにやらねば他の受験者に差を付けられると思ったため。
『スタンダード100 憲法』
→わがメインテキスト。
『新・論文の森(上)』
→上巻(人権)のみ再び使用することとした。新論文の森がこんなにも解説や答案の質が高いテキストだったとは…予備試験終了後にようやく気付いた。