予備試験を独学・1年で受験してみた

非法学部生が独学・1年未満で予備試験に合格した記録(問題集絶対主義)/73期弁護士

令和元年司法試験 再現答案 刑事訴訟法(A評価)

評価予想や議論のネタにしてもらうのは構いません。

一切の転載・複写をご遠慮願います。

刑事訴訟法 再現答案】
第1 設問1
1.小問1
(1)下線部①の逮捕、勾留及びこれに引き続く平成31年3月20日までの身体拘束(以下、「本件拘束」)は適法か。別件逮捕勾留として違法となるのではないか、問題となる。
(2)逮捕、勾留の要件は身体拘束の基礎となった被疑事実を基準として判断すべきである。また、令状裁判官が捜査機関の主観的意図を見抜くことは困難である。よって、逮捕勾留の要件をみたすかは専ら別件について判断すべきである。
(3)甲を業務上横領罪で逮捕したことについて、甲が以前勤務していたX社の社長から、甲が「顧客Aから集金した3万円を着服した」旨の供述を得ていること、本件業務上横領事件につき同社長から被害届を受けていること、Aから集金した3万円がX社に送金されたことを裏付ける帳簿類等が見当たらなかったことなどから、甲が業務上横領罪を犯したことにつき嫌疑があり、「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」(199条1項)がある。また、甲は単身であること、X社を退社した後は無職であり身軽であること、業務上横領罪は長期懲役10年の重大犯罪である(刑法253条)ことから、逃亡するおそれがあり、「逮捕の必要」(199条2項但書)がある。よって、逮捕は適法である。
(4)では、勾留の要件をみたすか。甲は上記のように、業務上横領罪を犯したことにつき嫌疑が認められ、「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」(207条1項、60条1項)がある。また、上記のように、甲は単身であり、無職であるから身軽であり、「逃亡すると疑うに足りる相当な理由がある」(207条1項、60条1項3号)。また、上記のように逮捕は適法であるから、適法逮捕の前置がある(207条1項「前三条の…」)。以上より、勾留の要件ををみたし、勾留は適法である。
(5)では、勾留延長の要件(208条2項)をみたすか。本件では、甲が「事件当日は、終日、H店かI店にいたような気もする」と供述していることから、捜査機関は甲がH店およびI店に来ていないことを確認する必要がある。しかし、I店では、防犯カメラが同月14日まで修理中であったため、勾留の期間である3月10日の時点ではこれを確認できず、修理後にその映像を確認する必要がある。よって、「やむを得ない事由がある」といえ、勾留延長の要件をみたす。
(6)以上より、本件拘束は適法である。
2.小問2
(1)1.の通り、身体拘束の適法性は専ら別件を基準として判断すべきであるから、以下の説は採用できない。
(2)令状主義の潜脱を防ぐため、別件逮捕勾留は違法であるものと解する。もっとも、令状裁判官が捜査機関の主観的意図を見抜くことは難しく、この点で、1.の別件基準説にも理由がある。
そこで、別件の身体拘束としての実体を喪失し、かかる身体拘束が本件取調べ目的に利用されるに至った場合は、その時点以降の身体拘束は違法となる(実体喪失説)。
(3)上記の通り、甲の逮捕は、逮捕の理由、逮捕の必要性があり、適法になされている。よって、甲の逮捕は適法である。
(4)また、上記の通り、3月1日時点で勾留の理由、勾留の必要性がある。また、適法逮捕も前置されている。よって、勾留は適法に開始されている。
(5)本件勾留において、3月7日までは、たしか強盗致死事件についても取調べがなされているものの、やはりメインは業務上横領についての取調べがなされており、いまだ業務上横領としての身体拘束の実体を喪失したとはいえない。よって、3月7日までの身体拘束は適法である。
(6)もっとも、3月8日以降は、専ら強盗致死についての取調べが行われているから、もはや本件業務上横領事件の身体拘束のとしての実体を喪失している。たしかに、甲の取り調べ以外の捜査においては、本件業務上横領事件についての捜査がメインでなされているものの上記のように身体拘束の適法性は本件取調べ目的となったか否かで判断することから、右の事情は結論を左右しない。
(7)また、上記のように3月8日以降の身体拘束は違法となるから、「やむを得ない事由」はなく、勾留延長の要件はみたさない。よって、勾留延長は違法である。
(8)以上より、本件拘束は、3月7日までの逮捕勾留及びこれに引き続く身体拘束は適法である。他方、3月8日以降の身体拘束は、本件業務上横領事件の身体拘束としての実体を喪失し、違法である。
第2 設問2
1.下線部②の訴因変更について、裁判所は許可すべきか。「公訴事実の同一性」(312条1項)が認められるか問題となる。
当事者主義的訴訟構造(256条6項、298条1項、312条1項)のもと、審判対象は検察官の設定する具体的事実たる訴因である。とすれば、かかる具体的事実に変動が生じた場合、訴因変更は許されるのが原則である。もっとも、無限定に変更を許せば被告の防御に不利益を与えるおそれがある。とすれば、「公訴事実の同一性」とは訴因変更の限界を画する概念である。
そして、「公訴事実の同一性」があるかは、基本的事実関係が社会通念上同一という基準、補充的に非両立性の基準を用いて判断する。
本件では、公訴事実1と同2は、平成30年11月20日という同一日時であり、A方という同一の場所で行われ、また、Aから売掛金の集金として受け取った3万円という同一の客体であるから、基本的事実関係が同一である。公訴事実1と同2は、甲に集金権限があったか否かという法的構成に違いがあるにすぎない。
とすれば、「公訴事実の同一性」があるから、訴因変更が認められるとも思える。
2.もっとも、本件では公判前整理手続を経ているところ、かかる訴因変更は時的限界を超えるものとして信義則(刑事訴訟規則1条2項)により却下されるのではないか。
この点、公判前整理手続終了後に訴因変更を禁じる旨の明文はない。しかし、公判前整理手続は、公判を充実させるため、争点と証拠の整理をするものである。また、検察官は公判前整理手続において訴因変更義務(316条の21、1項)を負う。さらに、あまりに時期に遅れた訴因変更を許せば、被告人の防御を害する。
とすれば、検察官が右訴因変更義務に違反したものと認められ、かつ、公判前整理手続を行った意味を失わせる場合には、かかる訴因変更は信義則(刑事訴訟規則1条2項)違反として却下される。
本件では、証人であるX社社長が公判期日になって「甲には集金権限がなかった」旨主張しているところ、これは同社長が公判前整理手続後になってはじめて思い出したことによるものであり、故意ではない。とすれば、検察官が公判前整理手続の際にかかる訴因変更をするのは不可能であったといえる。
また、甲は集金権限がないことはわかっていた旨供述しており、被告人の防御を害しない。
よって、検察官が右義務に違反したとはいえず、また、公判前整理手続を行った意味を失わせるともいえない。
3.よって裁判所は、下線部②の訴因変更を「許さなければならない」(312条1項)。          以上
 

【雑感】

・設問1

・勾留延長の事実でYの出張を完全に書き忘れた。

・聞くところによれば、実体喪失説は令状主義なんて関係ないそうです。ありがとうございました。

・設問2、「本件では集金権限が争点となっていなかったこと」に触れられていません。ありがとうございました。

・刑事系、死亡(民事はもっとすごいよ)。

 

【使用教材】

『逐条テキスト』

→疑問点があれば辞書として活用。

判例百選』

→刑訴法も判例を知らないと他の人に差を付けられるため。

今年の設問2の訴因変更の問題なんかはその典型だった。

『新・論文の森』

→解説と参考答案の質が高いため使用。あまりに質が良いため刑訴法はこれをメインテキストとしていた(ただ改正法には注意)。

『スタンダード100』

→論点ストックのため使用。

 

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