予備試験を独学・1年で受験してみた

非法学部生が独学・1年未満で予備試験に合格した記録(問題集絶対主義)/73期弁護士

令和元年司法試験 再現答案 刑法(A評価)

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【刑法 再現答案】
 
第1 設問1
1.甲が、本件キャッシュカード等が入った封筒とダミー封筒をすり替え、本件キャッシュカード等が入った封筒を自らのショルダーバッグ内に隠し入れた行為につき、Aのキャッシュカードを客体とする窃盗罪(刑法235条、以下法名略)が成立するか。
2.(1)まず、Aのキャッシュカードは所有権の対象となるだけでなく、これにより預金の払い戻しを受けられる等の財産的価値を有するから、Aのキャッシュカードは「財物」である。
(2)また、「窃取」とは、権利者の意思に反して、財物を自己または第三者支配下に移転させることをいう。
本件では、甲が、本件キャッシュカード等が入った封筒とダミー封筒をすり替え、本件キャッシュカード等が入った封筒を自らのショルダーバッグ内に隠し入れたことにより、Aの意思に反して、Aのキャッシュカードの占有を自己の支配下に移転させており、「窃取」があるといえる。
(3)ここで、甲がAに対して「この封筒に封印をするために印鑑を持ってきてください」と申し向けたことを「欺」く行為、客体を本件キャッシュカードと暗証番号を併せ持つことにより預金の払い戻しを受けられる地位という「財産上…の利益」とする詐欺罪が成立する可能性があるとも思える。
しかし、詐欺罪は交付罪であるから、欺もう行為は処分行為に対して向けられたものである必要があるところ、本件では、甲は「…印鑑を持ってきてください」と申し向けたのみであり、これは処分行為に対して向けられたものではなく、占有を緩めるためのものにすぎない。
(4)よって、上記のようにAのキャッシュカードをショルダーバッグに入れたことにより「窃取」があったといえる。
3.また、窃盗罪は、不可罰的使用窃盗や毀棄罪との区別から、①権利者排除意思と②利用処分意思が必要なところ、本件では問題なくこれらをみたす。
4.以上より、甲の右行為に窃取罪が成立する。
第2 設問2
1.①の立場
(1)乙には事後強盗罪の共同正犯(60条、238条)が成立する。
(2)238条の文言から、窃盗犯であることは身分犯である。また、不真正身分犯であるとすると、事後強盗罪が暴行罪の加重類型であることになり不合理である。よって、事後強盗罪は真正身分犯であるものと解する。
本件では、甲に窃盗未遂罪が成立するから、甲は「窃盗」である。
(3)また、65条はその文言から1項が真正身分犯、2項が不真正身分犯の成立と科刑を規定しているものと解する。そして、非身分者も身分ある者と共同することで法益侵害が可能であるから、「共犯」には共同正犯を含む。
共同正犯の成立要件は60条の根拠である相互利用補充関係から、①共謀②正犯意思③共謀にもとづく実行行為である。本件では、甲が「こいつを何とかしてくれ」と言ったことで、甲と乙の間に現場共謀が成立している(①)。また、乙は重要な役割を担っており、正犯意思がある(②)。さらに、乙がCに向かってナイフを示して脅迫したことは、甲乙間の右現場共謀に基づくものである(③)。
(4)また、乙は、甲がCの逮捕されないように右脅迫をしており「逮捕を免れる」目的がある。 
(5)また、事後強盗罪は「強盗として論ずる」とされているから、236条1項との均衡から、「暴行又は脅迫」は相手方の反抗を抑圧するに足りる程度のものであることを要する
本件では、乙がCに対して刃渡り10センチメートルのナイフを示しながら「離せ。ぶっ殺すぞ。」と申し向けているところ、かかる行為により生命身体への危害をおそれるのが通常であるから、乙の右脅迫は反抗を抑圧するに足りる程度のものであり、「脅迫」がある。
(6)もっとも、甲は実際には窃盗未遂罪であるところ、乙は甲がコンビニエンスストアの商品をショルダーバッグ内に盗み入れており、窃盗の既遂であると認識している。かかる事実と認識のずれによって、故意(38条1項)が阻却されないか。
故意責任の本質は、規範に直面し、反対動機を形成できたのにあえて犯罪行為に及んだことに対する道義的非難にある。そして、規範は構成要件の形で与えられているから、構成要件が重なり合う限度で故意責任を問うことができる。
本件では、乙は甲が窃盗既遂であると認識しているところ、現実には甲は窃盗未遂を犯している。よって、乙には窃盗未遂の限度で故意が認められる。しかし、238条の「窃盗」は窃盗未遂罪でもよいとされているから、乙に甲が「窃盗」であることにつき認識があることはかわりなく、かかる認識のずれによっては事後強盗罪の否定されない。
(7)以上から、乙には事後強盗罪の共同正犯が成立する。
2.②の立場
(1)乙には脅迫罪の共同正犯(60条、222条)が成立する。
(2)まず、事後強盗罪は窃盗罪と脅迫罪の結合犯である。
(3)本件では、乙は上記のようにCに対して脅迫をしており、脅迫罪の共同正犯が成立する。
(4)もっとも、甲は乙との共謀が成立する前に、窃盗未遂を犯しているところ、乙がこれについても帰責されるのか。承継的共同正犯の成立が問題となる。
共犯の処罰根拠は、自己の行為が結果に対して因果性を与えた点にある。とすれば、自己が加入する前の行為について、遡って因果性を与えることはできないから、承継的共同正犯は成立しないのが原則である。もっとも、後行行為者が先行行為者の行為の結果を自己の犯罪の手段として積極的に利用する意思のもと犯罪に加攻したなどの特段の事情があれば、因果性が認められ、承継的共同正犯が成立する。
本件では、乙は、甲をCからの逮捕を免れさせる目的で右脅迫をしているのみであり甲の窃盗未遂の結果を自己の犯罪手段として積極的に利用する意思は認められない。
(5)よって、乙は甲の窃盗未遂罪を帰責されず、乙は脅迫罪の共同正犯にとどまる。
(1)まず、事後強盗罪を結合犯とすると、窃盗行為に着手した時点で事後強盗罪の着手が認められることになり、実行の着手が早くなりすぎるから妥当でない。よって、①の立場のように、「窃盗」は真正身分犯であると解する。
(2)そして、①の立場の通り、甲は「窃盗」であり、甲乙には「逮捕を免れる」目的があり、乙はCに対して「脅迫」をしている。
(3)ここで、236条との均衡から、事後強盗罪の既遂、未遂の区別は、窃盗の既遂、未遂を基準とする。
すると、本件では、甲は窃盗未遂にとどまるから、甲と乙は事後強盗の未遂の客観的構成要件をみたす。
(4)もっとも、乙は甲が窃盗既遂であると認識しているから、故意が阻却されないか。上記の基準で判断する。
本件では、乙は甲が窃盗既遂と認識しているところ、甲は窃盗未遂である。とすれば、乙は事後強盗既遂の認識で、事後強盗の未遂を行なっているから、事後強盗の未遂の限度で重なり合いがあり、故意がある。
(5)よって、乙には事後強盗の未遂の共同正犯(243条、238条、60条)が成立する。
第3 設問3
1.緊急避難
(1)丙がワインボトルを投げつけDの頭部に傷害を負わたことは、傷害罪(204条)の構成要件に該当する。
(2)本件では、丙は甲に向かってワインボトルを投げつけているところ、Dの頭部にあたり、傷害結果を生じさせている。これは、防衛行為の結果が第三者に生じた場合であるところ、丙とDは「正」対「正」の関係にあることから、緊急避難(37条1項)が成立し、違法性が阻却されないか。
(3)「現在の危難」とは危難が現存し、または間近に押し迫っていることをいう。本件では、甲は、ナイフの刃先をDの胸元に突き出しており、危難が間近に押し迫っているといえる。
(4)「避難するため」とは避難の意思をいうところ、本件では、丙はDを助けようとして、甲に向かってワインボトルを投げつけているから、避難の意思がある。
(5)「やむを得ずにした」とは、補充性の要件であるところ、ボトルワインを投げつける行為は、丙が採り唯一の手段であったから、かかる要件をみたす。
(6)では、「生じた害が避けようとした害の程度を超えない」といえるか。かかる要件は法益均衡の要件であるところ、緊急避難においては「正」対「正」の関係にあることから、法益の均衡があるかは厳格に判断する。
本件では、丙が避けようとした害は、甲の強盗行為による財産に対する侵害である。他方、生じた害は、Dの頭部傷害という身体に対する害である。とすれば、法益の均衡があるとはいえず、かかる要件をみたさない。
(7)よって、法益均衡の要件をみたさず、緊急避難を成立させるのは難しい。
2.誤想防衛
(1)丙がワインボトルを投げてDに傷害を負わせたことは、傷害罪(204条)の構成要件に該当する。
(2)また、正当防衛が成立するか問題となるも、丙はDから「急迫不正の侵害」を受けていないから、正当防衛は成立せず、違法性は阻却されない。
(3)もっとも、丙の認識においては、正当防衛であり、故意が阻却されないか。
故意責任の本質は上記の通りであるが、違法性阻却事由を認識した場合は、反対動機の形成可能性がなく、故意責任を問いえない。よって、丙の認識において正当防衛となっていれば、故意が阻却される。
本件では、丙の認識において、正当防衛となっている。よって、故意が阻却され、傷害罪は成立しない。
(4)もっとも、丙はワインボトルを投げつけるという危険な行為をしており、三者に傷害結果が発生することを予見すべきだから、過失傷害罪が成立する可能性が高く、何ら責任を負わないとするのは難しい。               以上

 

【雑感】

・負傷ポイント

①重症 時間不足で、誤想防衛の主観検討を丸々省略(途中答案)

②重症 設問3の誤想防衛はこれまた焦って条文摘示を忘れる

③設問2 逮捕を免れる目的じゃなくて財物取り返し防止目的やんけ。再現作成中に気づいた。

・設問2の②の立場で、脅迫罪の共同正犯じゃなくて暴行罪の共同正犯と書いた可能性もある(何やってんだワタシ)

・刑事系が弱いのは自覚してますが刑事系合計100点ほしい(民事がお亡くなりなので)

・再現作ってて、事後強盗の目的を客観のところで書いたような気がしてきた…終わった(本当なら大ケガ)

・設問3の2.の最後は「ワインボトルを投げつけるという、不確実な行為」とすべきだった…あと、「成立する可能性が高く」って何だよ、ハッキリ言うべき。

・追記 設問2の立場①は別に事後強盗の既遂にしなくてもよかったのだろうか。つい、既遂にするよう求めてるものだと思ってムリヤリ変な理論構成をしたのだが…

 

【使用教材】

『逐条テキスト』

→疑問点があれば辞書として活用。

『新・論文の森 (上)(下)』

→解説と参考答案の質が高いため上下巻ともに使用。これなくして、今年の刑法は解けなかったと思うほど感謝している。

『スタンダード100 刑法』

→わがメインテキスト(他の科目と比べるとやや論文の森の使用比率が高めではある)。

 

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